排尿障害
排尿障害には蓄尿症状(頻尿、尿意切迫感、夜間頻尿)、排尿症状(尿勢低下、尿線途絶 腹圧排尿)、排尿後症状(残尿感、排尿後尿滴下)といった症状があり、生活の質(QOL)を低下させることがあります。
原因として、前立腺肥大症、過活動膀胱、神経因性膀胱、細菌性膀胱炎、尿路がん(前立腺がん、膀胱がん)、間質質性膀胱炎、尿路結石などのいろいろな疾患の可能性があり、まずは正確な診断に基づく治療が肝要です。泌尿器科やかかりつけ医にご相談ください。
排尿障害でよく見受けられる症状
- 尿が近い
- 夜間の尿が近い
- 尿の勢いが弱い
- 尿が途切れる
- いきまないと尿が出ない
- 尿が出るまでに時間がかかる
- 尿をした後に漏れる
- 尿が出ない
前立腺肥大症
前立腺は、膀胱のすぐ真下にあって、尿道を取り囲むように位置している男性の臓器です。
前立腺の役割は、精液の一部である前立腺液を分泌し、精子に栄養を与え、運動能力を高めます。
前立腺が腫大している状態を前立腺肥大症と言います。通常はクルミ程度(14-18g)の大きさですが、50歳をこえると前立腺が肥大し、鶏卵やみかんくらいのサイズになる方がいます。加齢に伴い有病率は上昇し、約半数の方に症状を伴うと考えられています。60歳台男性の30%、80歳台男性の45%が、前立腺肥大症による排尿障害を有していると考えられます。
診断検査
前立腺肥大症の症状の客観的な評価法としては、IPSS(国際前立腺症状スコア)と. QOL(困窮度)スコアを調べることで重症度が判定できます。治療方針の決定や治療の効果の判定の参考となります。
IPSSスコア 軽症:0-7点 中等症:8-19点 重症:20-35点
検査として、尿検査、腹部エコー検査による前立腺サイズの測定、残尿量測定を行います。
前立腺肥大症と似た症状を呈する疾患として、前立腺がんとの鑑別も大切です。
直腸診(医師が肛門から指を入れ、前立腺を触診していく)、血液検査(PSA検査、腎機能検査)を行い、前立腺がんの疑いがないか調べます。50歳以上の男性は、前立腺がんの健診もかねて、一度はPSA検査を受けておくことを推奨しています。
治療
治療の基本は薬物療法になります。使用される薬の種類としては、①α1受容体拮抗薬(尿道を拡げる作用)、②PDE5阻害薬(膀胱、前立腺の血流を改善し平滑筋を弛緩させ、排尿機能を改善する作用)、③5α還元酵素阻害薬(前立腺のサイズを小さくする作用)が中心です。漢方薬を用いることもあります。
薬物療法で症状の改善が見られない場合、尿閉や血尿など強い症状が出始めた場合は、手術療法(内視鏡治療)を検討します。手術が必要な場合は、連携医療機関にご紹介いたします。
過活動膀胱
過活動膀胱は「急に我慢できないような尿意が起こる」「トイレが近い」「急にトイレに行きたくなり、我慢ができず尿が漏れてしまうことがある」などの症状を示す病気です。多くの方がこの病気で悩んでいらっしゃることがわかっています。
診断検査
過活動膀胱の症状の程度を調べる過活動膀胱症状質問票(OABSS)という質問票があります。これらの質問票が診断のために使われることがあります。問診以外には、尿検査、腹部エコー検査(残尿量測定、尿路の形態をチェック)を行います。
治療
過活動膀胱の治療は、薬物療法を行うのが一般的です。抗コリン薬(膀胱排尿筋の収縮を抑える作用)やβ3作動薬(膀胱の排尿筋を拡げる薬)を用います。行動療法として「膀胱訓練」、「骨盤底筋体操」があり、機能の弱まった膀胱や骨盤底筋を鍛えることによって頻尿や失禁といった排尿症状を軽くすることができます。
新しい治療:2020年4月より難治性過活動膀胱に対して、ボトックス膀胱内注射が保険適応となりました。ボトックス治療が必要な場合、しかるべき医療機関にご紹介いたします。
夜間頻尿
就寝してから起床するまでの間に尿に1回以上起きる場合を夜間頻尿と言います。治療対象になるのは、夜間に2回以上起きる方で、かつ困っている方になります。
原因
夜間頻尿の原因は、夜間多尿・膀胱畜尿障害・睡眠障害の3つが考えられます。
夜間多尿とは、夜間の尿量が1日尿量の3分の1以上(例:1日尿量が1500mlの方の場合、夜間500ml以上の尿量)の場合を夜間多尿と定義します。
膀胱畜尿障害とは、尿をためる容量が低下している状態です。1回排尿量が150ml~200ml以下の場合、畜尿障害(容量低下)と考えます。
睡眠障害による夜間頻尿のかたも少なくありません。夜間眠れない、ないし睡眠の途中で目が覚めてしまうと自分自身に神経が集中してしまい、なんども尿にいってしまうことがあります。
診断検査
排尿日誌(おしっこの日記)をつけていただき、1日の排尿時刻、排尿量を記録してもらいます。2-3日間 排尿日誌をつけていただき、1日排尿量、排尿回数、1回排尿量、夜間の排尿量、夜間の排尿回数を確認します。
治療
原因により治療方法が異なります。
夜間多尿の場合、夕方以降の水分摂取を減らし、アルコール(飲酒)、塩分、カフェインをとりすぎないよう生活指導を行います。高血圧、うっ血性心不全、慢性腎臓病、睡眠時無呼吸症候群といった内科疾患や、降圧剤や利尿薬など薬剤が夜間多尿の原因となっている場合、原因疾患の治療や薬剤の見直しを提案することがあります。男性の夜間多尿に対して2019年9月から抗利尿ホルモンによる治療が保険適応になりました。
膀胱畜尿障害が原因の場合、抗コリン薬やβ3作動薬による薬物治療を行います。
睡眠障害が原因の場合は、生活習慣の指導を行い、ときに睡眠薬を処方します。
夜間頻尿は、排尿障害での中でも、生活の質を低下させる要因となっており、お困りの方はご相談ください。
神経因性膀胱
排尿をコントロールしている、脳、脊髄、末梢神経が何らかの障害を受けてしまい、それによって排尿機能や膀胱の畜尿に関して異常がみられている状態を神経因性膀胱と言います。
仙髄より上位の中枢の神経が障害を受けた場合を痙性神経因性膀胱と言います。この場合、神経膀胱が過敏な状態となってしまい、蓄尿障害がみられるようになります。これによって過活動膀胱(頻尿)や切迫性尿失禁などの症状がみられるようになります。原因疾患としては、脳血管障害(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)、脳腫瘍、パーキンソン病、多発性硬化症、脊髄不全損傷といったことが考えられます。
一方仙髄より下位の末梢神経が障害を受けると弛緩性神経因性膀胱を来します。原因疾患としては、糖尿病、脊椎疾患(脊柱管狭窄症、脊髄損傷、二分脊椎など)、骨盤内手術後(直腸、子宮)が考えられます。
診断検査
神経因性膀胱が疑われる場合、腹部超音波検査(腹部エコー)で膀胱や尿路の異常を確認するほか、尿検査や尿流動態検査を行います。当院では積極的に膀胱内視鏡検査を行い、膀胱尿道病変の有無を確認するともに、膀胱機能(膀胱容量や尿意の有無)の評価も行うようにしています。
畜尿障害(尿をためることができない)、排出障害(尿をだしきることができない)のいずれの症状が主体となっているのか判断し、治療します。
治療
畜尿障害、排尿障害ともに薬物療法が主体です。排尿障害で残尿が常に多い場合は、腎機能が悪化する恐れがあり、間欠自己導尿という方法を指導します。具体的には尿道カテーテルを用いて1日に何度か患者さん本人ないし家族に導尿(尿道口から膀胱内にかけてカテーテルを挿入して尿を排出していく)をしてもらいます。自己導尿が困難な場合は、尿道カテーテルを留置し、定期的に外来通院で交換することもあります。
泌尿器がん
泌尿器がんとは腎実質と腎盂・尿管・膀胱・尿道から成る尿路、および前立腺、精嚢、陰茎、精巣などの生殖器からで発生したがんで、当院では、主に前立腺がん、膀胱がん、腎臓がん、精巣がんの方の診断・治療・経過観察を行っています。
前立腺がん
前立腺で発生するがんのことですが、その7割近くが辺縁領域(前立腺の外側)に発生するがんと言われています(残りは内側にある移行領域や中心領域にて発生)。
発症初期は自覚症状が出にくいのも特徴ですが、ある程度まで進行すると排尿困難、尿閉、残尿感といった症状が出ますが、これらは前立腺肥大症の症状にもよく似ています。進行すると骨やリンパ節に転移し、骨転移の場合痛みが出ることがあります。
その部位(腰部や背部 など)に痛みなどの症状が現れるようになります。
診断検査
前立腺がん検診では、50歳以上の男性を対象とした採血によるPSA検査が行われます。同検査で4ng/mLを超えている場合に精密検査(直腸診、経直腸的前立腺エコー検査、MRI検査)を行います。直腸診、経直腸的超音波検査は当院で、MRI検査は近隣の病院で受けていただき、検査結果は当院の電子カルテにあるモニター画面でMRI画像をみながら、説明いたします。精密検査で前立腺がんを疑う場合、前立腺生検という組織検査を予定します。
前立腺生検は患者さんの年齢、全身状態により、患者さん、ご家族と相談し医療機関に紹介いたします。
組織検査で前立腺がんと判明した場合、画像検査(MRI、CT、骨シンチグラフィー)などを行い、進行度を確認します。
治療
早期の転移のない前立腺がんで、75歳以下の方は、根治術の対象となり手術や放射線治療の適応になり、適当な医療機関をご紹介します。ご高齢の方や転移のある方はホルモン治療の適応になり、当院でホルモン治療を行います。なかには治療対象にならない早期前立腺がんもあり、定期的なPSA検査による監視療法を行います。
腎臓がん
人間ドックなど検診が広く行われるようになり、腹部超音波検査やCT検査、MRI検査で偶然見つかるケースが増えています。無症状で偶然見つかる偶発がんは、早期がんのことが多く、手術療法の適応になります。以前は開腹手術を行っていましたが、今は腹腔鏡手術やロボット支援手術が主流となり、術後の創部の痛みが軽減され、回復が格段にはやくなっています。もし腎腫瘤が見つかった場合は、ダイナミックCT検査、MRI検査を行い、がんの進展度(臨床病期)を判断し、治療方針を決定します。手術療法が基本となりますので腹腔鏡手術やロボット支援手術を行っている医療機関に紹介いたします。
手術後の定期フォローアップは当院で担当させていただくことが可能です。
手術療法による腫瘍の摘出が難しい場合は、薬物療法として、分子標的薬、免疫療法による免疫チェックポイント阻害薬、サイトカイン療法の適応となり、適当な医療機関に紹介いたします。
膀胱がん
膀胱がんの初期症状は、血尿(肉眼的血尿、顕微鏡的血尿)、頻尿、排尿痛などです。特に症状を伴わない肉眼的血尿(無症候性は血尿)は要注意です。膀胱がんの発がん危険因子として、血尿に加え、40歳以上の男性 、 喫煙歴 、 化学薬品暴露 、泌尿器科系疾患、 排尿刺激症状 、 尿路感染の既往 、鎮痛剤(フェナセチン:商品名セデス)多用、骨盤放射線照射既歴、 シクロホスファミド治療歴挙げられます。
診断検査
血尿など膀胱がんが疑う症状があれば、腹部超音波検査、尿細胞診(尿中のがん細胞を調べる検査)、膀胱内視鏡検査膀胱により膀胱内の状態を確認し診断します。
膀胱内視鏡検査は先の細い(口径16Fr)軟性電子スコープを用いています。
検査時間は約5分です。
治療
膀胱がんが疑われた場合、まず内視鏡手術(経尿道的膀胱腫瘍切除術:TUR-Bt)を行い、病理診断で腫瘍の悪性度(がんの顔つき)、深達度(がんの深さ)を判定します。
膀胱の筋層に到達していない筋層非浸潤性がんでは、内視鏡手術±膀胱内注入療法(抗がん剤、BCG)による治療を行います。膀胱の筋層に浸潤している筋層浸潤癌では膀胱全的術、尿路変更といった根治手術を検討します。膀胱以外のリンパ節や臓器(肺、肝臓、骨など)に転移がある場合は、化学療法(抗がん剤の点滴)が選択されます。
当院では、膀胱がんを診断した場合、すみやかに連携医療機関に紹介します。手術後の追加治療として膀胱内注入療法が必要であれば、当院で治療を受けていくことができます。
また手術後の定期的な検査(膀胱鏡検査、尿細胞診検査、尿路エコー検査)も行っています。
腎盂がん・尿管がん
膀胱がんと同様に、血尿で高齢男性に発症しやすく、喫煙や化学物質の暴露が危険因子です。初期では血尿がみられ、がんが進行すると腎盂や尿管が閉塞し、尿の流れが悪くなり、水腎症、水尿管を来し、腰背部や側腹部に痛みがでることがあります。膀胱がんと合併することも少なくありません
診断検査
尿細胞診、腹部超音波検査の結果、腎盂がんや尿管がんが疑われた場合、造影CT検査やMRI検査で尿路を精査し診断をします。膀胱がんを併発することがあり、膀胱鏡検査も行います。当院では、腎盂がん・尿管がんがを診断した場合、すみやかに連携医療機関に紹介します。
治療
転移がみられないという場合は、手術療法となります。具体的には、腎尿管全摘除術と膀胱部分切除術が行われます。また、転移がみられていれば、全身化学療法(抗がん剤治療)や症状を緩和させる目的で放射線療法を行うこともあります。
当院では、腎盂・尿管がんを診断した場合、すみやかに連携医療機関に紹介します。
手術後の定期的な検査(膀胱鏡検査、尿細胞診検査、尿路エコー検査)を行っています。
精巣がん
精巣に発生する悪性腫瘍のことを総称して精巣がんと呼びます。20~30歳代において発症しやすいとされ、その割合は10万人に1~2人程度と言われています。
よくみられる症状は、痛みはないものの急に陰嚢が腫れて大きくなる無痛性陰嚢腫大です。進行するとリンパ節、肺、肝臓、脳などに転移します。
検査・診断
大きくなった陰嚢の内容を観察します。精巣の触診、精巣エコー検査を行います。鑑別疾患として陰嚢水腫、精巣上体炎、精巣上体腫瘤、精巣捻転、精巣炎などがあげられます。触診、エコー検査で精巣腫瘍が疑われた場合、血液検査で腫瘍マーカー(AFP,βhCG)を測定を行い、画像検査として胸腹部のCTやMRI検査を行い、転移の有無を確認します。
精巣腫瘍の場合、手術(高位精巣摘除術)を行い、速やかに診断・治療をすすめることが肝要です。精巣腫瘍が疑われた場合、迅速に連携医療機関に紹介いたします。
治療
手術で精巣腫瘍を精巣・精索ごと摘除します。(高位精巣摘除術)
摘出した精巣腫瘍の組織型(病理組織診断)、転移の有無により治療方針を決定します。
精巣腫瘍の大部分は悪性の胚細胞腫瘍で、セミノーマ(精上皮腫)と非セミノーマ(胎児性がん、卵黄嚢腫瘍 など)に分類されます。組織型、転移の有無により、経過観察、放射線療法、化学療法などが行われます。若い男性に多く、進行が速い癌なので、早期発見、早期治療が重要です。
尿潜血、血尿
血尿には肉眼ではっきり血液が混じっていることがわかる肉眼的血尿と顕微鏡で調べることでわかる顕微鏡的血尿があります。受診のきっかけとして多いのは、健診で尿潜血を指摘されることです。
原因としては、泌尿器科癌(膀胱がん、前立腺がん、腎がん)、尿路結石(腎結石、尿管結石、膀胱結石)、前立腺肥大症、出血性膀胱炎、尿道カルンケル(女性の尿道入口にできる良性腫瘍)、特発性腎出血、左腎静脈捕捉症候群、腎炎(IgA腎症、糸球体腎炎など)などがあげられます。
診断のために、まず尿検査、超音波検査、尿細胞診を行います。肉眼的血尿、尿路上皮がんの危険因子※の方には、膀胱内視鏡検査※にて原因検索を行います。
さらなる精査として造影CT検査やMRI検査が必要なときは、連携医療機関で検査を受けていただきます。検査の予約は患者さんのご都合にあわせ、当院で調整いたします。検査の結果は当院のモニターで画像をみながら説明します。
尿検査で血尿を指摘された場合、尿路上皮がんや結石など治療対象となる病気が隠されていることもありますので、専門医にご相談ください。
※ 尿路上皮がんの危険因子
40歳以上の男性 / 喫煙歴 / 化学薬品暴露 / 肉眼的血尿 / 泌尿器科系疾患 / 排尿刺激症状 / 尿路感染の既往 / 鎮痛剤(フェナセチン:商品名セデス)多用 / 骨盤放射線照射既歴 / シクロホスファミド治療歴
※ 膀胱内視鏡検査
当院ではより低侵襲を目指し、オリンパス社の細径軟性ファイバースコープを使用しています。検査は予約制ですが、肉眼的血尿で診断を急ぐ場合、緊急対応もしています。
女性は尿道が4-5㎝と短いので、カメラ挿入時の瞬間的な鋭い尿道痛がありますが、検査中の痛みはあまり問題になりません。男性は尿道が20㎝以上と長く、尿道括約筋という尿道をしめる筋肉や知覚が敏感な前立腺という臓器があるため、その部分をカメラが通過するときに鋭い痛みを伴います。
細径内視鏡の先端に潤滑ゼリーをつけて、内視鏡先端が尿道の中央部を通過するように心がけ、なるべく苦痛を軽減できるよう努めています。痛みが強い方には検査前に痛み止めの座薬を使用していただくこともあります。
膀胱内視鏡検査後は、膀胱炎の予防のため水分をしっかり摂取してください。もし検査後に血尿や発熱を認めた場合、電話でご連絡していただくか、外来を受診して下さい。
尿路結石症
主に腎臓内で尿成分(シュウ酸、リン酸、尿酸 など)が結晶化し結石を形成し、それが尿路(腎臓、尿管、膀胱、尿道)に移動したもの尿路結石症と言います。
結石のある場所により、腎結石・尿管結石・膀胱結石・尿道結石と呼びます。
外来受診されるかたで最も多いのは痛みを伴う尿管結石です。
腎結石
無症状のことが多いのですが、ときに知らない間に腎臓で大きな結石(サンゴ状結石)を形成することがあり、要注意です。無症状でもサイズが1㎝を超える場合は破砕治療の対象になります。
尿管結石
泌尿器科の救急疾患で最も頻度の多い病気です。突然の脇腹、背中、下腹の激痛に襲われ、同時にむかむかして嘔吐することもあります。年齢は20歳代の若い方からご高齢の方まで幅広い年齢層にわたります。男性に多い病気で、生活習慣が深くかかわる病のひとつです。
腎臓にあった結石が尿管に移動すると、尿管が痙攣し、尿の流れが悪くなり、腰背部から脇腹、下腹部にかけて、いきなり激痛に見舞われます。同時に血尿を伴うことがあります。嘔気嘔吐を伴うことも多いです。
膀胱結石は、腎臓から結石が流れる場合と膀胱で結石が作られるケースがあります。これによって、排尿時の痛み、排尿障害、血尿などの症状が現れるようになります。尿道結石は、腎臓や膀胱からの結石が流れてきたもので、排尿障害や血尿のほか疼痛などがみられることもあります。なお、尿路結石症の約96%を占めるとされているのが、腎結石と尿管結石による上部尿路結石症とされ、約4%が膀胱結石と尿道結石の下部尿路結石症と言われています。
尿路結石症が疑われる場合、尿検査(顕微鏡的血尿の有無)、画像検査(腹部超音波検査、CT など)を行うなどして診断をつけます。
治療に関してですが、痛みの症状が強い場合は、NSAIDsや抗コリン薬を使用していきます。結石に対しての治療では、10mm以下であれば水分を多く飲んで尿の勢いで排出するようにします。またクエン酸製剤など薬物療法を用いることもあります。また結石が10mm以上の場合は、積極的除去法が行われます。この場合、上部尿路結石では、外部から結石に向けて衝撃波を加えていくことで石を破壊していく体外衝撃波結石破砕術(ESWL)などが、下部尿路結石の場合は、主に尿道から内視鏡を挿入して結石を破砕していく経尿道的尿管結石砕石術が行われます。
尿路結石は生活習慣病でもあり、再発の予防として食事療法が大切です。資料を用いた食事指導を行います。
尿路感染症
尿路とは、尿が生成されて排泄されるまでの経路(腎臓、尿管、膀胱、尿道)のことを言いますが、これらで発症した感染症が尿路感染症です。感染の主な原因は腸内細菌で、大腸菌が最も多く、腸球菌、クレブシエラなどが原因菌となります。
尿路感染症は上部尿路感染症と下部尿路感染症に分けられ、上部尿路(腎臓、尿管)感染は主に急性腎盂腎炎のことをいいます。急性腎盂腎炎では夕方から夜にかけて38度以上の発熱を認めることが多く、たいていは片側(右ないし左どちらか片方の)腰背部の痛み、排尿痛、尿の濁りを認めます。全身倦怠感、食欲不振、ときに嘔吐を伴うこともあります。 下部尿路(膀胱、尿道 男性では前立腺、精巣上体も含む)感染で、女性では特に膀胱炎の頻度が高く、男性では膀胱炎のほか前立腺炎、精巣上体炎を指します。膀胱炎では排尿痛、頻尿、残尿感、尿混濁、時に血尿などの症状がみられるようになります。前立腺炎では高熱、会陰部痛、頻尿、残尿感、ときに排尿困難を伴います。精巣上体炎では陰嚢の片側腫大、陰嚢部の発赤、疼痛、高熱、頻尿、排尿痛を伴います。前立腺炎、精巣上体炎は男性のみの病態です。
膀胱炎
膀胱で起きた細菌感染症のことを言います。膀胱炎の中で最も多いのが急性単純性膀胱炎です。生殖年齢の若年女性に多いのですが、高齢女性にも膀胱炎を繰り返す方が多く、女性にとっては一生罹患することがある可能性がある疾患です。大腸菌が尿道から侵入し、膀胱で感染することで発症します。冷え、生理中、性行為、免疫力が落ちた状態で感染しやすい疾患です。
症状は、頻尿、排尿痛、残尿感、尿混濁、ときに血尿です。膀胱炎で熱が出ることはなく、高熱がある場合は腎臓まで感染が及んだ腎盂腎炎の可能性が高いと考えます。
検査・診断
問診、身体診察、尿検査、超音波検査(腎臓、膀胱、前立腺、時に精巣精巣上体)、血液検査を行います。尿路感染が判明し場合は、細菌培養で原因の菌を同定し、どの抗菌薬が効果的かを調べます(細菌培養、感受性試験)。
治療
抗菌薬を使用します。発熱を伴わない場合は、局所の感染なので抗菌薬の内服でたいおうしますが、発熱を伴う尿路感染(腎盂腎炎、前立腺炎、精巣上体炎)は全身性の感染症(尿路から血液を介して全身に菌がまわっている)の可能性があり、抗菌薬の点滴を選択します。 また血液検査を行い炎症反応が高い場合や、全身状態が芳しくない場合は、入院を検討し、近隣の医療機関に紹介させていただくこともあります。
膀胱炎 日常生活で気をつけること8ヶ条
- 水分を多く摂取しましょう。1日2リットル位が目安
(尿量を増やして、膀胱内の細菌を洗い流すイメージ) - おしっこを我慢せず、こまめにトイレにいきましょう
- 排便後は、便が陰部に接触しないように排前から後ろに拭きましょう
- 生理用品はこまめに取り替えましょう。
- ウォシュレットの使用はほどほどにしましょう
(便がノズルに付いていることがあります) - 性行為の後、おしっこにいくようにしましょう
- 下半身とくに骨盤部を冷やさないよう暖かくしましょう
- 免疫を低下させないために規則正しい生活を心がけましょう。
腎盂腎炎
腎盂腎炎は、主に尿を溜めて、その尿を膀胱へと送る器官である腎盂が細菌に感染し、様々な症状が出ている状態を言います。
急性腎盂腎炎は、比較的若い女性に発症しやすく、主に大腸菌による尿道からの上行性感染となります。感染することで、発熱、悪寒、腰背部痛、吐き気などの症状がみられ、膀胱炎に続いて起きることから血尿や頻尿などもみられます。診断は、尿検査、尿路超音波検査、尿培養検査、血液検査を行います。尿路に何らかの基礎疾患(尿路結石、尿路腫瘍、前立腺肥大症、尿道カテーテル留置など)がある場合もあり、病状に応じてさらに詳しい検査(尿細胞診、膀胱内視鏡検査、CT検査、MRI検査)を行うこともあります。
治療
急性腎盂腎炎では、抗菌薬に点滴が主体となります。クリニックではセフトリアキソン(セフェム系)の点滴行うことが多いです。内服薬は多くの種類の菌に効果のあるキノロン系(レボフロキサシン)やオーグメンチン(ペニシリン系)を使用することが多いです。尿培養検査で原因菌が同定できれば、抗菌薬をより狭域のものに変更することもあります。 ただ腎盂腎炎でも全身状態が芳しくない方、尿路結石や尿路腫瘍が合併している方、基礎疾患があり免疫の低下した方(糖尿病、がん、ステロイド内服中)は時に重症化する恐れがあり、病院を受診していただくよう手配します。