小児泌尿器科とは

小児の泌尿器(腎臓、尿管、膀胱、尿道)と生殖器(精巣、陰茎、子宮、腟 など)を主な対象とした診療科となります。発達途上にある子どもは、同じ器官であっても成人とは検査や治療方法が異なるほか、治療にあたっては成長発育を考慮しながら行っていきます。
また小児特有の泌尿器症状としては夜尿症(おねしょ)も含まれるほか、乳幼児期にみられやすい精巣が陰嚢に達していない停留精巣、漿液が陰嚢の中で貯留してしまう陰嚢水腫など治療が必要とされる泌尿器疾患を診療していきます。
夜尿症(おねしょ)
一般的にはおねしょと呼ばれることが多いかと思いますが、5歳を過ぎてもおねしょが続いている場合は夜尿症と診断されます。その定義は、5歳になってから月1回以上のおねしょが3ヵ月以上みられている場合を言います。多くは年齢と共に治まっていくものですが、実は小学校低学年の児童のうち10人に1人の割合で夜尿症に悩んでいるとも言われています。
なお夜尿症の原因は大きく2つあるとされています。そのひとつが夜間尿量の増加になります。この場合、夜間時に尿量が通常よりも増加することで漏出するようになるわけですが、その原因として利尿を妨げる働きがあるとされる抗利尿ホルモンが夜間に分泌不足を起こしていることが考えられます。したがって、夜間尿量を減少させるためには抗利尿ホルモン剤をしていきます。これによって尿が濃縮されるようになって尿自体の量を減らせるようになります。
もうひとつの原因は、夜間膀胱容量の減少になります。この場合、膀胱に貯蔵できる尿量が夜間睡眠中では通常よりも少なくなってしまうことで漏れてしまいます。そのため、夜間の膀胱容量を増やすようにしていきます。その対策として、よく利用されるのが抗コリン薬です。これは膀胱の緊張を和らげる効果があるので、それによって膀胱の収縮を抑えられ、尿が上手く溜まるようになります。このほか尿漏れをブザー音で知らせてくれる夜間アラームの使用というのもあります。これによって夜間の膀胱容量を増やす、尿意で起きられるようにするといったことをできるようにします。
主に上記の2つが原因とされる夜尿症ですが、どちらか一方だけでなく、両方とも起きていることがあります。また稀ではありますが、膀胱や腎臓などに器質的な異常が原因ということも考えられるので、お子さんに夜尿症がみられている場合は、一度小児泌尿器科をご受診されることをお勧めします。
停留精巣
精巣とは陰嚢の中にあるものですが、元々お腹の中にあるものが下降してその状態になります。多くは胎児のうちに陰嚢に治まるようになるのですが、何らかの原因によって精巣が下降せず、その途中で止まってしまっている状態を停留精巣と言います。
原因としては、胎生期に男性ホルモンの一種であるテストステロンの分泌低下、低出生体重児や早産の場合に起こりやすいと言われています。
出生後に停留精巣の状態というのは、すぐに見つかるようになりますが、自然に精巣が落ちてくることもありますので、2歳くらいまでは経過観察となります。2歳を過ぎても精巣が停留したままの場合は、腹部内にある精巣を見つけ出して、陰嚢内に縫合していく精巣固定術を行うようにします。
なお停留精巣のまま、これといった治療をしない場合は、男性不妊や鼠径ヘルニア、精巣捻転症などが起きるリスクが高くなりますので要注意です。
陰嚢水腫
陰嚢内に水が溜まってしまう状態を陰嚢水腫と言います。原因としては、先天性と続発性の2つが考えられるわけですが、小児の場合は先天性のケースがほとんどで、この場合は交通性陰嚢水腫と呼ばれています。これは本来なら閉じられているはずの腹膜の先が閉じないことで陰嚢との間がつながるようになってしまい、それによって腹腔内の漿液が陰嚢内に貯留してしまっている状態を言います。
原因としては、精巣がお腹の中から下降して陰嚢に収まっていく過程において、その通路がうまく閉じられなくなってしまったことなどが挙げられます。よく見受けられる症状ですが、漿液が入っていくことで陰嚢が大きくなっていきますが痛みなどの症状はみられません。多くは、自然に吸収されていくことが大半なので経過観察となります。ただ3歳を過ぎても治癒しない、鼠径ヘルニアを併発している、歩きにくいなどの症状があれば手術療法による外科的治療が行われます。
小児の包茎
小児期における包茎は、ごく自然な状態です。赤ちゃんや幼児では、包皮(ペニスの先端の皮)が亀頭に癒着していることが多く、成長とともに自然に剥がれていきます。学童期(6~10歳)には約半数以上で包皮がむけるようになり、思春期までにはさらに自然に開いていきます。医学的に問題となる包茎は、排尿時にふくらんだり、包皮の先が細くて排尿困難を起こす「真性包茎」の場合です。見た目やむけ具合だけで、すぐに手術が必要になるわけではありません。
生活習慣指導
- 無理に包皮を剥こうとしないでください。痛みや傷、炎症の原因になります。
- 入浴時に包皮の先から優しくぬるま湯をかけ、清潔を保ちましょう。
- 包皮が自然に開いてきたら、軽く引き下げて洗う習慣をつけるとよいでしょう。
- 排尿後は、包皮の中に尿がたまっていないか確認しましょう。
受診の目安
- 排尿時に包皮が大きく膨らむ
- 先端が赤く腫れたり、膿が出る
- 繰り返し包皮炎(亀頭包皮炎)を起こす
- 排尿に強い痛みや困難がある
これらがある場合は、泌尿器科受診をおすすめします。
治療について
軽度の場合、多くは経過観察のみで十分です。
必要に応じて、以下の治療を検討します。
- ステロイド外用薬
- 包皮をやわらかくして、開きやすくするお薬を塗る方法です。大半の子供さんはステロイド外用治療で治ります。
- 包茎手術(環状切除術)
- 日常生活に支障がある場合や、繰り返し感染を起こす場合に手術を検討します。その場合は近隣の小児外科を紹介いたします。焦らず、成長とともに自然に変化していくことを見守ることが大切です。
小児の亀頭包皮炎
亀頭包皮炎とは、ペニスの先端(亀頭)や包皮(皮膚部分)が赤くなったり、腫れたり、痛みを伴ったりする炎症のことをいいます。
小さなお子さんでは、包皮の中に汚れがたまりやすく、細菌が繁殖して炎症を起こすことがよくあります。
見た目にびっくりすることもありますが、適切なケアで比較的早くよくなることが多い病気です。
生活習慣指導
- 毎日の入浴時に、包皮を無理なくやさしくめくり(できる範囲で)、ぬるま湯で洗い流しましょう。
- 石けんは刺激が強すぎる場合があるため、洗いすぎに注意しましょう。
- 入浴後は包皮をもとに戻し、皮膚を乾燥させるようにしましょう。
- トイレ後も、軽く拭き取るなどして清潔を保つことが大切です。
受診の目安
- 赤みや腫れが強い
- 膿が出る
- 強い痛みで排尿を嫌がる
- 発熱を伴う
- 繰り返し炎症を起こす
これらの場合は、早めに泌尿器科を受診しましょう。
治療について
症状に応じて、次のような治療を行います。
- 塗り薬
- 炎症を抑える目的で副作用の少ない弱めのステロイド(ロコイド軟膏)や、抗菌薬を含む軟膏を使用します。
- 抗菌薬の内服
- 炎症が強い場合や、広がりがある場合は内服薬を処方することもあります。
- 痛みや炎症を和らげるケア
- 入浴で温めたり、ぬるま湯で清潔にすることが回復を助けます。
【注意点】
無理に包皮を引っ張ったり、自己判断で市販薬を使ったりすることは控えてください。繰り返す場合や、炎症が慢性化している場合は、将来的な包茎治療を考慮することもあります。早めの対応と日々の清潔ケアで、再発を防ぐことができます。